リレーエッセイ

私と漢方との出会い

私と漢方との出会い

リレーエッセイ | 第26号投稿記事(2024年6月)  吉永 亮 先生

私と漢方との出会い

吉永 亮

飯塚病院 東洋医学センター漢方診療科 診療部長

私は自治医科大学を卒業後、飯塚病院で初期研修を行いました。初期研修時代は、院内に漢方診療科があるんだくらいの認識で、特別に漢方の勉強はしませんでした。その後、自治医大の義務年限として、地域医療に従事する予定だったことから、「診療所に勤務するのであれば、漢方が使えた方がよいだろう」との想いから、初期研修終了後に当時の漢方診療科部長であった三潴忠道先生を訪ねて、漢方の外来研修をお願いしました。そして医師4年目から福岡県内の離島と山間地のへき地診療所で3 年間ずつ勤務しました。地域医療を行いながら、外来研修のため飯塚病院漢方診療科に週1回通い、研修で学んだ漢方治療を日常診療に積極的に活用しました。へき地診療所では診療科を問わず、患者の様々な愁訴に対応する必要があり、「異常は無いから様子をみてください」といった救急外来のような診療スタイルとは違う、なんでも気軽に相談できるその地域で唯一の「かかりつけ医」として一人一人の症状と向き合う必要がありました。離島や山間地のへき地診療所でしばしば経験した例を以下に挙げると、
「梅雨になると頭痛やめまいが悪化する」「看病や初盆の後で体がきつい」
「冷えると痛みが悪化する」「こむら返りに芍薬甘草湯が効かない」などがあります。
これらの症状は現代医学的には捉えづらいものですが、漢方医学の考え方を導入すると治療介入が可能になります。特に印象に残った症例を紹介します。

(80歳代男性)総合病院にて帯状疱疹で入院加療をしました。退院後、帯状疱疹後神経痛が残存し、動けなくなりました。妻からの依頼で往診してみると、温めると軽減する痛みで、四肢に著明な冷えを認めたことから桂枝加朮附湯と加工ブシ末を処方。その後痛みが軽減してADLが改善しました。

(40歳代男性)屋外作業をする職業のため、夏季になると暑さで例年10kg以上の体重減少、夜間も体熱感がとれずに不眠となっています。飲水1日4L以上、仕事後も口渇がひどいとのことで、白虎加人参湯を処方。仕事後の口渇が軽減し、不眠も改善、その後は体重減少がなくなりました。

その他、夜に体調が悪くなったらどうしようと不安を訴える高齢独居の女性や、産後の全身倦怠感に加えて、義理の両親や親戚からのストレスによる不眠、不安を訴えた女性に半夏厚朴湯や加味帰脾湯が有効であった症例など、地域ならではの症例をいくつも経験しました。このように漢方治療では家族や地域を含めた患者背景や気候や気温と体調との関連も考慮して治療ができます。そうして自分の想像以上に漢方治療が有効で、患者さんと一緒に症状の改善を喜ぶことができる「漢方治療の醍醐味」をたくさん経験することができました。さらに興味深いことに、離島と山間地の漢方治療を比較すると,共通点や地域差が原因と考えられる処方傾向の違いも存在しました(1)。この「地域医療から学んだ漢方治療」で、漢方の面白さ・深甚さに魅了されたことが、私が「漢方医」を目指したきっかけとなりました。

 その後、地域医療に従事する期間が終了し、もっと深く漢方を勉強したいと当科に就職してはや12年が過ぎました。現在は「漢方専門医」として総合病院での漢方外来、入院治療、救急外来、大学病院総合診療科、コミュニティーホスピタルの家庭医外来、都市部の漢方クリニックなど様々なセッティングで漢方治療を行なっています。地域医療時代と同様、総合診療、プライマリ・ケアと漢方の親和性を実感しています。

同時に漢方の教育に携わる機会も増えてきて、自分が学んだ漢方研修を再現したいと「あつまれ!!飯塚漢方カンファレンス」(2021年.南山堂)、「とびだせ!!飯塚漢方カンファレンス」(2024年.南山堂)と漢方医の診察と当科の漢方カンファレンスを追体験できる拙著を上梓させていただきました。
 今後も漢方薬の可能性を拡げることができるように日々精進していきたいですし、先人の知恵の結晶である漢方医学を正しく伝えていくことができたらと思います。

[参考文献]
(1)  吉永亮、木村豪雄、田原英一.漢方治療の地域差と共通点-海の漢方・山の漢方 -日本病院総合診療医学会雑誌2018:14(3):249-254