リレーエッセイ

私と漢方との出会い

私と漢方との出会い

リレーエッセイ | 第39号投稿記事(2025年4月)  髙岡 裕 先生

私と漢方との出会い

漢方との邂逅

髙岡 裕

富山大学附属病院 医療情報・経営戦略部(計算創薬・数理医学講座) 教授(部長)
富山大学附属病院 痛みセンター 鍼灸師(局所鎮痛機能担当)
富山大学研究推進機構 先端抗体医薬開発センター(バイオインフォマティクス部門)副センター長
神戸大学医学部附属病院 情報分析推進室 特命教授(併任・クロスアポイントメント)
熊本大学 生命資源研究・支援センター 疾患モデル分野 客員教授
神戸常盤大学保健科学部医療検査学科 特命教授

 私が明治鍼灸大学(現・明治国際医療大学)に入学した経緯は、m3.comのインタビューなどで読めるので、重複しない内容にしようと思う。鍼灸の治療効果メカニズムを研究したくて入学したが、解析に必要な基礎医学を学ぶことが可能な徳島大学大学院へ進学し、その専門家を目指し鍼灸と距離を置いた(鍼灸臨床のアルバイトは熊本大学時代までやっていた)。その後、指導教授の榊佳之先生の栄転によ り九州大学大学院から東京大学大学院に進み、白金台の医科学研究所 ヒトゲノム解析センターへ移った。

すぐ熊本大学医学部遺伝発生医学研究施設(現・発生医学研究所)に国内留学し、クローン技術で疾患モデルマウス作出し病態解明に取り組んだ。これらの研究の過程で、マウスに鍼刺激して鍼の効果を解析できると考えた。東大の大学院3年の時に、当時徳島大学で博士号取得後に熊本大学医学部の助手や日本学術振興会特別研究員であった大田美香博士(明治鍼灸大学卒、現・富山大学附属病院 副部長)と、徳島大学歯学部で鍼刺激したマウス骨格筋のトランスクリプトーム解析を行った。これは夏休みの1週間、徳島大学大学院の時に我々を可愛がってくださった口腔解剖学講座の石塚 寛教授(日本指圧専門学校・前校長、浪越徳治郎氏の娘婿)のご好意で研究室を自由に使うことができ、マウスも石塚先生が購入してくださった。また、当時東京衛生学園の理事長をされていた後藤修司先生(四国医療専門学校・前校長)に趣旨をご理解いただき解析費用の支援を得て、その後の解析を進めることができた。この解析で、鍼通電刺激が骨格筋幹細胞を活性化することが証明され、分子細胞生物学的な鍼研究の嚆矢となった。そしてこの研究は、Nature Neuroscienceに鍼の局所鎮痛の論文が出るまでの5年間は、鍼の研究でIFが最高レベルの論文であった。その後の准教授時代にはスーパーコンピュータを解析に利用するなど、鍼灸の研究に集中することは困難だった。

徳島大学大学院修士課程で
実験中の私

とはいえ、例えば六然社の寄金丈嗣社主にゲノムインフォマティクスの教科書出版で助力いただくなど、折に触れて漢方(鍼灸)領域のご縁に助けられた。2021年に富山大学附属病院の教授に就任し、多少は自由ができると期待した。しかし、今度は役職(センター長が1、副センター長・副部長が計3つ、客員教授・特命教授が計3大学)が多すぎ自由が効かない。それでも教授室に鍼治療用ベッドを導入し、倫理委員会の許可後に鍼の臨床研究を開始すべく、準備を進めている。