センプククリニック 院長
私は大阪生まれの大阪育ちで,予備校以外の学歴・職歴はすべて
大阪です.家は商売人(あきんど)で,「頭を下げるのに銭(ぜに)は要(い)らん」という言葉と,タイトルにある「若いときの苦労は,買(こ)うてでもせい」という言葉を聞きながら成長してきました.
さて,高校時代の話.母校は理科系志望であろうが,受験科目に古典がなかろうが「古典Ⅰ乙」に加え「古典Ⅱ」までを必須としていました.当時,古文Ⅱは許せたのですが,漢文Ⅱというのが面白くなく「0点」を取ってしまいました.漢文の教師から呼び出しを食らい, 「千福! この薄っぺらな冊子だけは勉強してくれ」と言って,漢文学習ノートを渡されました.素直な学生でしたので,受験に漢文は不要でしたが「苦労を買う」ことにし,その解説本を読破しました. 「意外と漢文は面白いものだ」で青春は終わりました.
医学部に進学し外科医となり,漢文は全く必要なく人生は進んでいきました.ところが,開業医になって偶然に漢方薬の魅力にとりつかれ,漢文が必要となってきたのです. 「生薬の働きを,かつての名医達はどう考えていたのだろう」 .この疑問を解明するために,長沢道寿(?-1637)の『増補能毒』に出会いました. 「原著が読めるだろうか?」 冒頭の「人参」を読み始めたとき,高校時代に手渡された冊子の記憶が蘇ってきました. 「返り点さえあれば,読める! 意味がわかる!」.このときばかりは,恩師に何と感謝すれば良いのだろうか,と感慨にふけりました.それだけではありません.この書物に「生薬の知恵」が凝縮されていたことと,原文から伝わる著者の人柄にも直接触れることができました.以後,彼の著書である『医方口訣集』にもチャレンジとなりました.
ところで,「もう,青春は戻らない」とお嘆きの読者のために,今風の漢文勉強法をお教えします.You tube の検索で「漢文 勉強法」などと入力してください.素晴らしい講師達が,優しく,丁寧で,明解に教えてくれます.すごい時代です.ちなみに,「今も俺(千福)は若い」 ,そのつもりで「苦労を買ってやる」と,岡本一抱(1655-1716)の『和語本草綱目』の現代語訳に取り組んでいます.これは日本人用「古典漢方薬理学」における至高の参考書と考えています .出版となりましたら,読者が若くなくとも,千福の苦労を「買(こ)うて」やってください.