国際医療福祉大成田病院 予防医学センター 病院教授
国際医療福祉大成田病院 漢方外来担当
千葉大学真菌医学研究センター特任教授
千葉大学医学部附属病院和漢診療科
すでにどこかで書いたのですが、漢方医学と最初との出会いは、千葉大学に入学した日に始まります。サークル紹介の冊子がその日に配られ、運動部のページが多い中、最後のページに「東洋医学研究会」というのがありました。そこにまさしくピンと琴線が触れ、昭和54年4月の第1回のその研究会の部会の日に恐る恐る部室に行った思い出があります。そこではじめて、漢方医学の講義を1-3年先輩から教えていただきました。もしこの時の内容が、単に葛根湯なら風邪という単純なものでしたら、学ばなかったでしょう。陰陽虚実に分けて、いわば体質診断の上で、それに合った処方を出すとか、六病位(病気の時期)を考え処方を変えることに興味をおぼえ、学ぶ価値があると考えて入会したという経緯であります。その後、よき先輩と出会えました。例えば、伊藤隆先生・東洋医学会元会長や福島県立医大会津医療センターの三潴忠道先生、千葉大学和漢診療科の上司だった寺澤捷年先生など枚挙にいとまがありません。そのような大学に入学して、一番感謝しているのは、千葉大学で今も続いている学生向けに先輩たちが講義をしている「自由講座」の講師を、昭和20年代に始めたころからお亡くなりになるまで休み期間以外無償で毎週木曜日に講義をしていただいた藤平健先生と小倉重成先生であります。私の入学当時は、藤平先生は漢方医学の基礎理論の講義と臨床治験のお話、小倉先生は『傷寒論解説』を使って傷寒論の本文の輪読を、それぞれ1時間の講義で受け持っていらっしゃいました。私はその講義を1年生後半から5年半ずっと聞かせていただけました。5年半も聞くと、門前の小僧状態なので、多少なりとも、漢方医学用語に慣れたのかと思います。私が入学したその年に、ちょうどお二人の共著で初めて書かれた『漢方概論』が発刊されました。これも縁でありましょう。すぐに購入して、総論のところを何度も読み返しました(写真は30年使った『傷寒論解説』(左)とともに、同じくらい傷んだ『漢方概論』(右))。
漢方医学の勉強は、語学になぞらえることができるのではと思っています。外国語の学び始めは何を言っているのかわかりません。文法(漢方医学なら基礎理論)をもちろん学ぶが、それで話せるわけもありません。しかし、これが、語学初心者には後で効いてくると思います。私は、幸か不幸か西洋医学を学ぶ前から、漢方医学を学ぶこととなったので、どちらもバランスよく頭に入っていきました。いわばバイリンガルです。多分、語学の天才の方もいるので、あとから学んでも当然熟達できる人もいるでしょうが、私のように愚鈍であると、そうはいかないわけです。何遍も何遍も、刷り込んでやっと理解できる・話せるようになりました(漢方医学が理解できたような気になった)。もちろん、西洋医学が中心の医学会で漢方医学に関して科学的な解析をすることは大変重要であることは、論を待ちません。私が出会ったころから藤平先生は、発熱メカニズムをセットポイント理論で説明しようとなさっていらっしゃいました(『漢方概論』の発熱の記載のところがのちに、私の生き方に影響した)。このような千葉大学の先輩に会えたことが、私の人生の目標が漢方医学をすることと決められた一因だと思っています。
さて、私は、本財団の活動の一つの「研究助成」に応募し、運よく2回ご支援をいただきました。現時点取り組んでいる2度目の支援は、学習を効率的にしたい方が少しでも漢方医学の学習に有益な情報が得られるようなことができないかと考えた末に、容易に東洋医学のコンテンツを探せるサイトを構築し。「バーチャルユニバーシティ 漢方アカデミア」(日本語・英語版)と名付けました(https://vu-kampo.jp)。
なお、本サイトの紹介は、本財団から「イベント支援」を受けました
第41回和漢医薬学学会学術大会の内でのポスター掲示やリーフレット掲載・配布などでも紹介を始めております。
このサイトを使うと、学習レベル別(初級、中級、上級)で検索、近くの東洋医学の勉強会の情報などの目的別、大学別など、いろいろな切り口から情報を探せるようになっています。東洋医学に少しでも触れたい人、西洋医学と東洋医学の両方を理解する達人を目指す人などに有用ではと思っています。私は、早めに学生時代に、たまたま東洋医学に出会えましたが、出会うまでに時間がかかった方々が、少しでも早く東洋医学を役立てることができればと願っています。なお、初めから自己流やハウツーではいけません。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」でしょうから、ちゃんとした本や正当な師匠・先輩から教わらないと、応用が利かなくなりますので。
東洋医学を愛し無償で教えてくれた藤平・小倉両先生を含めた多くの先輩らへ感謝とともに、安い学費で国立大学を卒業できるようにしてくれた国民の方々に貢献ができるように、今は、少しでも東洋医学を通して、恩返しの働きをしたいと思っている今日この頃であります。