リレーエッセイ

私と漢方との出会い

私と漢方との出会い

リレーエッセイ | 第38号投稿記事(2025年3月)  元雄 良治 先生

私と漢方との出会い

~若き日の臨床と研究~

元雄 良治

金沢医科大学名誉教授
 福井県済生会病院内科部長・集学的がん診療センター顧問

寺澤捷年先生とご一緒に
中田敬吾先生とご一緒に

 私は医学部卒業後8年間漢方を全く知らずに過ごした。学生時代も漢方医学教育を受けていない。しかし、1989年11月に開催された第1回ツムラ漢方医学セミナーに参加した際に、大塚恭男先生、寺澤捷年先生、広瀬滋之先生やその他多くの先生方のお話を拝聴し、自分も漢方を使ってみたいと思い、まずは日常診療からヒントを得た。私は当時肝臓・消化器内科を専攻していたので、内視鏡で診断した慢性胃炎の患者さんが口苦を訴えたことから六君子湯の効果を解析してみた。82例中15例が口苦を訴え、六君子湯で口苦消失(有効)12例、軽快(やや有効)3例とその効果に驚いた。すぐに英語論文(Am J Chin Med 1995)にまとめた。これが私の漢方に関する最初の英語論文である。その後も患者さんの症状を重視し、肝硬変患者におけるこむら返りに牛車腎気丸(Am J Chin Med 1997)、肝硬変患者における女性化乳房痛に葛根湯(Am J Chin Med 1997)、気うつを伴う咽喉頭異常感症に香蘇散(Am J Chin Med 1999)などの症例集積研究を論文として発表できた。また、当時慢性膵炎に対する柴胡桂枝湯の作用機序を分子レベルで解析し、その抗炎症・抗線維化・抗アポトーシス・抗酸化などの作用を解明した成果を発表したところ(Int J Pancreatol 2000, Pancreas 2001, Pancreatology 2001など)、中田敬吾先生から高く評価され、京都府立医科大学での日本東洋医学会関西支部例会で発表する機会に恵まれた。

室賀昭三先生とご一緒に

 
発表後、降壇し、自席に戻ろうとした際に、坂口弘先生から「柴胡桂枝湯のことを研究してくれてありがとう」とお言葉をかけて頂いた。これらの膵炎と柴胡桂枝湯の研究が日本東洋医学会学術奨励賞につながった。室賀昭三先生からも激励のお言葉を頂いた。また、地元北陸では多留淳文先生や新谷寿久先生にご指導頂いた。若き日のこのような先生方との出会いが私とっての漢方医学教育となり、漢方を学ぶ原動力になったことに心より感謝したい。