リレーエッセイ

私と漢方との出会い

私と漢方との出会い

リレーエッセイ | 第3号投稿記事(2022年10月)  三潴 忠道 先生

私は何故、漢方を志したのか

三潴 忠道

日本漢方医学教育振興財団 常務理事
福島県立医科大学会津医療センター
漢方医学講座 教授

 私の世代で漢方に興味を持った医師の多くは、自身や身内で漢方の効果を体験し、あるいは臨床現場で予想外の効果に驚いた、などの経験があるようです。私の場合は自身の体験かと思います。
‍ 生来虚弱な私は幼児期には喘息、数度の肺炎、小児期にも急性腎炎、毎月風邪で寝込むなどして、ホームドクターの N 先生にはたびたび受診していました。同時に私は近所の民間医療の先生にもお世話になっていて、漢方を含めた治療は体が楽になることを実感していました。これが “漢方”に触れた最初です。小児期から医師を目指した私に、N 先生からも「これからは漢方もわかる医者になりなさい」と勧められ、漢方を使える医師を目指すことにしました。後に、N 先生は良導絡学会設立時の重要人物だったと知りました。

 たまたま千葉大学に入学し、父に連れていかれた某学部の教授から、漢方の「ショーカンロン」を勉強している団体があると耳にしました。これが『傷寒論』を耳にした最初で、以後現在まで度々読み返すことになりました(写真)。
 さて偶然にも千葉大には日本最古の漢方サークル『東洋医学研究会』があり、そこで創設者の藤平健先生や小倉重成先生に巡り会いました。部活動として、今考えれば高いレベルのご指導を入学直後より受けていたことになります。これが漢方との 2 回目の大切な出会いです。

大学入学後、間もなく購入した『傷寒論解説』補修しながらしばしば読み返している。
藤平 健 先生
小倉 重成 先生

 漢方医学的な診断である証は、最終的に処方の治療効果が確認できてはじめて確定されます。藤平先生には『傷寒論』のすばらしさとともに、漢方薬が無効なときに「難病だから仕方がない」などとせず自分の診断(証判定)の誤りだと考え証を見直すという、漢方医の姿勢を学びました。小倉先生は漢方の両輪である湯液(漢方薬)と鍼灸を用い、さらに食養や運動なども取り入れて、 眼科医院ながら入院施設を備え、全国から集まる難症患者の診療に孤軍奮闘しておられました。小倉先生は「入院でな ければ本当のことはわからない」といわれ、西洋医学だけでは十分に満足の得られない患者に効果をあげられる姿を、私は何度も目の当たりにしました。
 私が 40 年間にわたり、総合病院で病棟を持つ漢方担当医として、製剤だけではなく生薬 を用いた漢方診療にこだわってきたのは、教えを受けたお二人の影響だと思います。これまで慢性腎不全、全身性強皮症、続発性アミロイドーシスなどの難病を初め多くの難症で漢方の臨床効果を経験してきました。しかしまだ、師の域には遠いようです。
‍ 我が国の医学教育においては現在、分野別評価基準やモデル・コア・カリキュラムに漢方が取り上げられ、全国 82 医学部の担当教員による教科書『基本がわかる漢方医学講義』(羊土社)も出版されました。臨床に有用な漢方医学が日本の医療現場でより正しく安全かつ有効に活用されるために、漢方医学教育の整備と発展を目指し、財団の一員として少しでもお 役に立ちたいと考えます。