日本漢方医学教育振興財団 専務理事
茨城県立医療大学 学長
筑波大学 名誉教授
私が最初に漢方というか、東洋医学に触れたのは実はドイツです。医学部卒業後5年目で西ドイツGöttingen大学で脳神経外科へ臨床留学したときのことでした。当時は脳神経外科3年目の専門医前の専攻医で、毎日病棟業務と手術(助手と執刀)を繰り返す毎日でしたが、所属する脳神経外科病棟で病棟専属の理学療法士が複数名配属されていました。患者さんが入院してくるとオーダーしなくても自ら患者のところに行き、術前からのリハビリを開始していました。その際に胸ポケットに「経絡」の記されたカード(図1)を有しており、聞いたところ必要に応じて鍼灸を行っているとのことで東洋医学がここまで導入されていることに驚き、何かと理論的なドイツで導入されているのは鍼治療にエビデンスがあるからなのではと感じました。
また、街中のスーパーでは日本でいう漢方薬、いわゆるハーブ薬が陳列されており、睡眠・精神安定、胃腸系、呼吸器系、腎臓系(むくみ),風邪などに効くと書かれており、試しにSchlaf und Nerven Tee(図2)と書かれているものを購入して飲んだりもしました。
日本に帰国直後にはあまり専門的に東洋医学を学ぶ機会はありませんでしたが、脳神経外科外来においてはいわゆる西洋薬では対応できない様々な訴えが多く、少しずつ漢方薬を使うようになりました。ちょうどその頃から「日本脳神経外科漢方研究会」に参加し、教育講演や症例発表から漢方薬の使い方などを学びました。また、私の脳神経外科教室に所属していた高野晋吾講師(現筑波大学・病院教授)と大学院生の神山洋さんがマウスを用いた実験的悪性神経膠腫に対する十全大補湯の抗血管新生効果と免疫調節作用を示した研究を行って英文論文にまとめてくれました(Kamiyama, et al. Anti-angiogenic and immunomodulatory effect of the herbal medicine "Juzen-taiho-to” on malignant glioma. Biol Pharm Bull, 28: 2111-6, 2005)。
私自身もそれまでは漢方薬のエビデンスという事についてはあまり認識が強くありませんでしたが、西洋医学的手法を用いてきっちりとエビデンスを出せることに感銘を受け、漢方薬を日常臨床で使うことの後押しとなりました。
現在では主に「頭痛専門外来」を担当しており、その中では「呉茱萸湯」、「五苓散」を中心とし、さらには女性に多い片頭痛に対しては女性に頻用される漢方薬をtry and errorで処方しています。漢方は数千年の歴史の上に成り立っているexperience based medicineですが、そこまで生き残っている事自体が一種のevidence based medicineになっているのではないかと思われます。今後とも日本漢方医学教育財団の活動を通じて国内の漢方医学教育、漢方診療、漢方研究に貢献していけたらと思います。
経絡図:https://www.pinterest.de/pin/549368854528644240/より引用
薬用茶:https://www.bad-heilbrunner.de/de/arznei-und-kraeutertee/schlaf-beruhigung /schlaf-und-nerventeeより引用