愛媛大学医学部 附属総合医学教育センター長
同大学院医学系研究科 医学教育学講座 教授
何を隠そう、私も漢方薬のユーザーである。20年以上前に職場の健康診断で指摘されたある症候について、軽度ではあったが念のため精密検査を受け、西洋薬を処方された。ただ副作用が強い薬だったため別の選択肢もないかなと思案していたところ、あるクリニックで漢方薬を処方された。以来、継続的に服用している。だから私も漢方薬のユーザーである。
大学で医学教育に携わる者としての漢方との本格的な出会いは、平成21年1月から平成28年10月まで四国四県の漢方エキスパートの方々とともに開催させていただいた、「四国漢方セミナー」である。「四国漢方セミナー」は、当時愛媛県立中央病院におられた山岡傳一郎先生が、代表世話人として四国の大学や市中病院で漢方を用い教えていた方々に声をかけられ、製薬会社のご理解も得て発足した会であった。漢方医学を学び続けようとする医療人の支援を主たる目的とし、四国四県をお遍路のように巡りながら、卒直後の研修医を対象とした集合型研修を計10回開催した。
「四国漢方セミナー」での研修については、平成22年2月のKampo Medical Symposium 2010で報告させていただいた。研修医を対象としたチュートリアル教育も当時は珍しかったが、この報告後も、生薬名を記載したカードを用いた「ジグソー法」を導入するなど、工夫を重ねた記憶がある。参加者は写真のようなカードを各自数枚ずつ持ち、既成の処方を構成生薬に分けてみたり、数名でカードを持ち寄って症例にあいそうな処方を作ってみたりしながら、漢方を学ぶ。
我々の「四国漢方セミナー」は研修医が対象であったが、セミナーが開催されていた8年間はちょうど、医学部における漢方医学教育の位置付けが確固たるものになった時期でもあった。平成13年に初版、平成19年に初改訂版が公表された「医学教育モデル・コア・カリキュラム」は、セミナーの発足後、平成22年度改訂版で『F-2-(1)-*17) 和漢薬(漢方薬)の特徴や使用の現状について概説できる。』と記載内容が充実した。そしてセミナーの閉幕後、平成28年度改訂版では、『F-2-8)-⑬ 漢方医学の特徴や、主な和漢薬(漢方薬)の適応、薬理作用を概説できる。』として臨床実習前に学ぶべき項目に位置付けられている。「四国漢方セミナー」は漢方医学にもモダンな教育手法を導入できることを示したと自負しているが、医学教育全体にも何某かの好ましい影響を与えることができたであろうか。 そういえば、冒頭で述べた症候は、先日の健康診断では検出されなかった。20年来、初めてのことである。地道な継続の成果として、そういうこともあるのだな、と思う今日この頃である。
参考文献
小林直人:四国漢方セミナーによる初期研修医の漢方医学教育の実践、日経メディカル、別冊付録「漢方特集」、May 2010, pp.12-13.