リレーエッセイ

私と漢方との出会い

私と漢方との出会い

リレーエッセイ | 第43号投稿記事(2025年7月)  加藤 育民 先生

私と漢方との出会い

加藤 育民

旭川医科大学 産婦人科学講座 教授

 私は、1992年に旭川医科大学産婦人科学講座に入局しました。本学でも他の多くの大学同様に「漢方講義」の時間が設定されていなく、あってもどこかの講義の一部に組み込まれていた程度でした。そのような状況もあり、私の漢方との出会いとしては、自身が処方するようになってからとなります。
 臨床で漢方薬処方を積極的に取り入れるようになったのは、1996年頃で、関連施設より大学に戻り、更年期外来を受け持つことが自身の始まりと思われます。当時は、女性三大漢方薬をどう利用するかが自身のメインテーマだったと思われます。2003年から留学し、2006年に本学婦人科部門に戻り、抗がん剤治療を行う患者さんが、抗がん剤の副作用で治療を中止したいとの希望者が多いことを認識しました。治療の補助(現在でいう補完医療)、または緩和的なものとして何かないかと探索したところ「十全大補湯」などの補剤が効果を示す論文を見つけ、担当患者さんに「十全大補湯」を処方し、肺転移抑制効果を認めた再発子宮体癌の1症例を経験しました。他の患者さんに広げることで、QOL改善を認める方を多く経験し、漢方薬の診療を強く推し進めようと考えるようになり、これが第2の出会いかと考えています。

学生たちが毎年作成するテキスト

 当時の大学では、学生たちが漢方薬を学びたい方が増え、サークル活動を始め、韓国まで勉強に行く学生も現れました。彼らから部活動にしたいとの願いを私に託され、部活動申請をして現在まで顧問をしております。部活初年度(平成20年)から、彼らは毎年テキストを作成し、現在まで続いています。学生たちは、積極的に活動し、第63回東洋医学学術集会では会頭賞を戴きました。
 さて、本学の大学講義に関して記載しますが、本大学の講義に漢方薬独自の時間が設定されていないこともあって、麻酔科に所属されていました間宮敬子先生(現、信州大学緩和部門教授)が尽力され漢方講義時間の確保がなされました。その講義時間を維持し発展するようにとの間宮先生からの使命を守りつつ、6コマの講義と2コマの実習時間を維持しております。漢方に理解ある多くの科の先生方のご協力もあり継続できているのが現状でもあり、また実習講義では明治薬科大学の矢久保修嗣先生のご協力により腹診シミュレータを借用させていただき充実した教育への足掛かりとなりました。これら活動もあり、日本漢方医学教育協議会にも参加させていただきました。また、日本漢方医学教育振興財団からの研究助成も含め、本学では5台の腹部診察シミュレータを独自に保持し、実習講義以外にも学術講演会や学祭などでも利用しています。
 本学では、東洋医学学会専門医ならびに指導医になる方も育ち、現在、指導施設になることができました。更なる漢方に興味を持つ医師が本学より増えることを願っております。


【文献】
1)十全大補湯内服後肺転移抑制効果を認めた再発子宮体癌の1症例.加藤 育民, 山下 剛, 西脇 邦彦, 片山 英人, 荻野 元子, 横浜 祐子, 千石 一雄, 石川 睦男
産婦人科漢方研究のあゆみ25号 P38-42(2008.)
2)当科における婦人科癌治療症例に対する漢方薬使用状況- 十全大補湯の有効症例 (第2報告)も併せて - .加藤育民, 千石一雄: 産婦人科漢方研究のあゆみ 31号 P 100-104,(2014)
3)北海道の3施設における漢方薬使用の現状と漢方教育.佐藤 泉, 間宮 敬子, 加藤 育民, 島野 敏司, 大滝 康一, 粟屋 敏雄, 田崎 嘉一, 国沢 卓之, 岩崎 寛
日本東洋医学雑誌68巻2号P157-164(2017)